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【あるひとつの愛の日々】 全13話

【あるひとつの愛の日々】 2

父は芸術的感性のスケールが大きい男だった

情熱的で
感情的で
喜びも悲しみも怒りも全ての表現が激しくて

全身全霊で
笑い
怒り
悩み

『生きる』ということに対して
こんなにも生身になれるものかというほどに、
自己と向き合い続けていた人だったと思う。

………………………………………………

父の激情の魂は
ともすると、全てに対して脅威的な執着へ変貌していったように思う。

時が経つにつれ
心の膿が滲み出るかの如く
神経過敏になり、眼の色が変わっていった。

父の足音が遠くから聞こえただけで、
家族全員が震え上がる殺気を
全身から醸し出していった。

年々父の心に重く襲いかかっていったのであろう不安や強迫観念、
自己否定による精神崩壊は

幼少期の父が体験した
[未熟な心のままの親に育てられてしまった]
ことが大いなる要因だった。

未成熟な人間による子育ては、
なんと罪深いものか。

本人だけでなく、次世代にも、社会にも、負の影響を及ぼすのだ。

その幼少期を過ごした父の心の闇は深く深く、

年月を経て
自ら創った大事な家族に対してついに爆発した。

芸術的感性の強い才能は、妄想や幻聴となり

愛の激しさは、要求と執着、暴力となり

自己肯定感の欠落は狂気となって

父の精神を完全に崩壊させてしまった。

………………………………………………

そんな父を私はどう見ていたかというと、

子供というのは健気なものである。

それでも親の幸せを願うのだ。

子供の私は
理屈を抜きに、なぜ父がこうなってしまっているのか?
父の哀しみや弱さを敏感に感じとっていて

何時間も罵声を浴びせられ
鼓膜が麻痺するほど殴られ続けても

庭の地面に胸から叩きつけられ
呼吸ができなくなりながらも

(どうか、これ以上狂わないで)

願っていた

私は父のことを好きでいたかった。

恐怖が勝って当時はそれを自覚出来なかったけれど。

父の心の奥底で

私は愛されていることを知っていたからである。

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