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【あるひとつの愛の日々】 全13話

【あるひとつの愛の日々】 3

幼少期にみていた母の身体には
父の足のサイズ程の
大きな青あざが絶えなかった。

ある日、小学校の夏のプールの帰り道、前から母が歩いてくる姿が見えた。
母は靴を履いていなかった。

その日も父に殴られ、外に蹴り出され、
家を出されたのだ。

母から手渡された小さなメモには
お財布や下着や着替え、靴などの必要品が書かれていて

兄が急いで自宅の鞄にそれらを詰め、
母の待つ小学校の校庭に持っていった。

その鞄に、幼い私も自分の貯金箱を破った小銭と、
走り書きした手紙を入れた。

『母さん、今は帰ってこないほうがいい。お友達のところで安全にしていて』
と、書いたと思う。

………………………………………………

兄はよく、泣きながら台所に立つ母の背中で涙を流していた。

そんな兄がいつか
いつものように母が怒鳴られていて、父が母に手をあげた瞬間、

『やめろ!!!!!』
と、大きな声で叫んだ時がある。

兄は想像を超える勇気を振り絞っていたはずだ。 

その瞬間から、
父の攻撃は完全に兄に向かうことになるからだ。

発狂がピークに達した父は
大声で何かを叫びながら
兄の頭を掴み
家の柱の角に、兄の頭を何十回も打ちつけ続けた。

母の悲鳴と父の叫び声と
ドスンドスン
という柱の打ち付ける音がたちこめる部屋に

硬直した姉と私は居た。

………………………………………………

姉は新聞広告の裏の白紙に、 
いつも大人しく絵を描いて過ごしていた。

その絵がとても上手で、私も隣で真似をしたが、
綺麗な姉の絵が羨ましかった。

そんな姉にさえも
容赦なく父の狂気は降り注いだ。

母が話してくれた。

姉が赤ん坊の頃、父が姉をお風呂に入れていた際、

姉が泣き始めたのをきっかけに
父は突然発狂し
『なんで泣くんだー!!!』
と叫びながら

何度も何度も、姉を水の中に沈めた。

小学校に通うようになった頃に
水やプールが苦手だった姉の姿を
遠くから眺めながら

少し、解るような気がした。

………………………………………………

『逃げれなかったのか?』
と思うかもしれないが、

そういった観念は完全に消滅させられしまうものだ。

逃げたら、
驚異的な執着で地の果てまで追いかけてくるだろう。

そしたら、間違いなく
殺される。

それが容易に想像できていたからだ。

  

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