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【あるひとつの愛の日々】 全13話

【あるひとつの愛の日々】 8

社会人になって数年経っていた私は
必死で自分の人生を受けいれようと背伸びをしていた。

19歳頃には
すでに父のことを許していた。
これが自分の父だと、受け入れていた。

幼少期の愛情欠落と暴力恐怖を受けて育った人間には

『自分がこのままでは愛される価値がない』

という観念が備わってしまう。

それは本当に長い間、
私の人生の横隣にくっついてまわった。

いびつな精神を持ってしまった私は
人に安心することが一切なかった。

人と対面したとたんに
髪の毛が全部逆立つほどに身体も心も硬直し
神経過敏になり
尋常ではないエネルギーを要した。

[人に心を委ねる]
ことなど
ハードルが高すぎる芸当であった。

そんな精神状態を
誰にも勘づかれないよう、
誰にもみせるものかと

私は
オーバーなほどに声高らかによく笑い
派手に振る舞い

同時に人を寄せ付けない激しさを
意図的に出した。

長い真っ暗なトンネルの
遥か先に見える
小さな光の点へ辿り着くまでに
あとどのくらい走らねばならぬのだろう。

(何が何でも、このトンネルを抜けきってやる)

そう自分に言い聞かせ続けた
20代の私の身体は

何年も

生理が止まっていた。

完全に、拒食と過食を繰り返す
摂食障害に陥っていた。

そんな
歪んだ穴だらけの心を

(誰にもバレないように修復して、乗り越えるんだ)

そう決めていた。

………………………………………………

しかし、現実は

ずっと

私は人に助けられていた。
 
どれほど、与えられ続けていたことか。

何一つ、自分だけで乗り越えられたものなど、無い。

私を心から愛してくれた恋人達

時に厳しく、そして言葉にできないほど温かく応援し続けてくれた沢山のお客様達

心から信じてくれた友人や家族

どこまでも味方でいてくれた同僚や師匠、先輩達…

これでもかというくらい、

私を取り巻く人々は
私を待ってくれた。

人に安心することが全く出来なかった私は
彼等に根気強く支えられながら

それまでの心の痛みと、
脳と身体に染み込んでいる哀しみや恐怖を
一つ一つ、クリアしていった。

実に長い年月を要する作業であった。

ひとつ乗り越えても
対象や事象や人が変わるたびに、

心の後遺障害がまだ残っていることを
何度も思い知らされた。 

丁寧に丁寧に、
その都度自分を内観しながら
心のレッスンは繰り返された。

何も言わずに隣で微笑んでいてくれた
彼等の愛が
なかったら

今の私は、無い。

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